1.近年の介護事業所の運営規程や重要事項の改定
介護事業所の運営規程や重要事項説明書は、これまでも社会状況の変化に合わせて見直されてきました。
令和3年度介護報酬改定における改定事項
出典:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」より引用・編集
令和3年度の介護報酬改定ポイントでは、
感染症や災害への対応力強化
・感染症対策の強化
・業務継続に向けた取組の強化
・災害への地域と連携した対応の強化
その他の事項
・高齢者虐待防止の推進
など、社会的リスクへの対応体制を明確化することが求められました。
これにより、運営規程や重要事項には、「事業所としてどのようにリスクに対応するのか」をあらかじめ明文化しておく重要性が高まりました。
令和6年度介護報酬改定における改定事項
「書面掲示」規制の見直し
出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」より引用・編集
令和6年度の介護報酬改定ポイントでは、さらに踏み込み、
- 運営規程
- 重要事項説明書
について、書面掲示に加えて電子掲示(ウェブ公表)が義務化されました。
これにより、利用者や家族が事前に事業所の運営方針を確認できる環境が整備され、内容の分かりやすさと透明性が、これまで以上に重要となっています。
2.新たに必要となるカスタマーハラスメント対応
2026年度(令和8年度)から、介護事業所におけるカスハラ対策は、努力義務ではなく、すべての事業所に共通する必須対応となります。
カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメントとは、利用者や家族等からの言動のうち、社会通念上相当な範囲を超え、 職員の就業環境を害するおそれのある行為を指します。
正当な苦情や要望とは異なり、
介護事業所に求められる主な対応対応-1024x576.webp)
今後、介護事業所には次のような対応が求められます。
- 対応方針の明確化と周知
カスハラの考え方、事業所としての対応姿勢を明文化し、
職員だけでなく利用者・家族にも説明すること。
- 相談体制の整備
職員が安心して相談できる窓口を設け、
管理者や法人本部と連携できる体制を整えること。
- 職員研修の実施
カスハラの判断基準や、現場での初期対応方法を共有すること。
- 発生時の適切な事後対応
対応マニュアルを整備し、
被害を受けた職員への配慮や、必要に応じた対応を行うこと。
- 再発防止策の徹底
事例を共有し、組織として対応力を高めること。
これらは、職員を守るだけでなく、事業所の安定的な運営を守るための措置でもあります。
3.具体的な運営規程や重要事項の記載事項(案)
運営規程や重要事項説明書には、職員の就業環境を守りつつ、適切な介護サービスを継続するための方針を分かりやすく記載することが重要です。
✔ 運営規程への追記文例(そのまま使える条文)
※条番号・章立ては、各事業所の既存運営規程に合わせて調整してください
(例:「苦情処理等に関する事項」の後段としての記載を推奨)
第◯条(カスタマーハラスメントへの対応)
1.本事業所は、利用者又はその家族等からの言動のうち、社会通念上相当な範囲を超える要求又は言動により、職員の就業環境を害するおそれのある行為(以下「カスタマーハラスメント」という。)について、職員の安全及び尊厳を確保し、適切な介護サービスを継続的に提供するため、組織として必要な対応を行うものとする。
2.前項に定めるカスタマーハラスメントには、次に掲げる行為を含むものとする。
ただし、これらに限られるものではない。
(1)暴言、威圧的な言動、人格を否定する発言
(2)業務の範囲を超える過度又は不当な要求
(3)合理性を欠く長時間の拘束や、執拗な要望・クレーム
(4)その他、職員の就業環境を著しく害する行為
3.本事業所は、職員が安心して相談できる相談体制を整備し、職員研修や対応マニュアルを整備して、必要に応じて法人本部、関係機関等と連携しながら対応するものとする。
4.本事業所は、カスタマーハラスメントが発生した場合、複数名による対応、事実関係の記録、管理者への報告等を行い、状況に応じて適切な対応を講ずるものとする。
5.カスタマーハラスメントが継続し、又は著しく悪質であると認められる場合には、サービス提供方法の見直しその他必要な措置について、利用者又はその家族等と協議を行うことがある。
【運営規程への記載の考え方】
運営規程では、
- 利用者排除と受け取られない表現
- 行政指導でも説明できる内容
が重要です。
そのため、「適切な介護サービスの継続」「職員の就業環境の確保」といった目的を明確にした表現が求められます。(※実際の条文例は、事業所の運営規程構成に合わせて調整してください)
✔ 重要事項説明書への記載例(利用者・家族向け)
※以下は、そのまま全文掲載できる文例です(「その他重要事項」としての記載を推奨)
カスタマーハラスメントに関する当事業所の考え方
当事業所では、すべての利用者様に安心して介護サービスをご利用いただくとともに、職員が安全で働きやすい環境を確保することを大切にしています。
そのため、利用者様又はご家族等からの言動のうち、社会通念上相当な範囲を超え、職員の就業環境を害するおそれのある行為については、カスタマーハラスメントに該当する場合があります。
具体的には、次のような行為が該当することがあります。
・大声での叱責や威圧的な言動
・人格を否定する発言や差別的な言動
・業務の範囲を超えた過度な要求
・長時間にわたる執拗な要望やクレーム
これらの行為が認められた場合には、複数名での対応や、サービス提供方法の見直しについて、ご相談させていただくことがあります。
なお、介護サービスに関する正当なご意見・ご要望・苦情につきましては、これまでどおり誠意をもって対応いたしますので、遠慮なくお申し出ください。
【重要事項説明書への記載の考え方】
重要事項説明書では、
- 「禁止」ではなく「お願い」
- 正当な苦情は妨げない
という姿勢を明確にすることが重要です。
利用者や家族に対して、事業所として大切にしている考え方を丁寧に伝えることが、トラブル防止につながります。(※実際の条文例は、事業所の運営規程構成に合わせて調整してください)
4.介護事業所の運営規程や重要事項は電子掲示へ
令和6年度介護報酬改定により、介護事業所には運営規程や重要事項の電子掲示(ウェブ公表)が義務付けられました。
電子掲示では、カスハラ対応方針や相談窓口の有無などを、利用者や家族が事前に確認できるよう整理・掲載することが求められます。
電子掲示の概要
- 対象:すべての介護サービス事業所
- 時期:2025年4月1日以降、義務化
- 方法:
- 法人ホームページ
- または「介護サービス情報公表システム」

今後は、
- カスハラ対応方針
- 相談窓口の有無
なども、利用者や家族が事前に確認できる情報として整理して、わかりやすく掲載していくことが重要になります。
まとめ|カスハラ対応は介護事業所と職員を守る基盤
カスタマーハラスメント対応は、介護事業所が「利用者と対立するため」の制度ではありません。
職員の安全と尊厳を守り、質の高い介護サービスを継続するための運用ルールの整備です。
2026年度の義務化を見据え、運営規程や重要事項の見直し、電子掲示の準備を、今のうちから進めておくことが、将来の安心につながるでしょう。