令和9年度改定を先回り解説シリーズvol.2
地域類型を区分する、人口密度・75歳以上人口の指標とは?
《《《前のコラム 6-1.令和9年度介護報酬改定のポイント解説!事業所が今すべき準備は
中山間・人口減少地域の介護事業所が「事業継続するための新しい選択肢」を解説
令和9年度(2027年度)の介護報酬改定に向けた議論の中で、特に大きな関心を集めているテーマの一つが「地域の実情に応じたサービス提供体制のあり方」です。
日本の人口構造は、大都市部と中山間・人口減少地域とで大きく異なっています。特に中山間地域や過疎地域では、利用者の減少や介護人材の確保難、訪問時の移動負担等により、従来通りの指定基準や報酬体系のままでは事業の継続が困難になるケースが増加しています。
こうした課題に対応するため、厚生労働省の審議会等では、全国一律の基準ではなく「地域類型(大都市部/一般市等/中山間・人口減少地域)」を整理し、特に「特定地域(中山間・人口減少地域)」における柔軟な対応や評価の仕組み(特定地域サービス等)が検討されています。本コラムでは、厚生労働省の資料をもとに、令和9年度改定で焦点となる「地域区分の考え方」や「特定地域の検討指標」、「事業所に求められる準備」について分かりやすく解説します。
⚠️ 【重要】本稿を読む際の注意点
本稿で紹介する「5人/㎢未満」「1,000人未満」などの具体的な数値は、厚生労働省資料で示された「考えられる指標・基準」の素案・検討例です。令和9年度の正式な指定基準や報酬・算定要件として確定したものではありません。制度の適用を判断する際は、必ず最新の厚生労働省通知および自治体の公表情報をご確認ください。
1.地域類型は「3つ」に分けて考える
2040年に向けて、日本では高齢者人口や生産年齢人口の変化が地域によって大きく異なると見込まれています。厚生労働省の資料では、全国を主に次の3つの地域類型に分類して考える方向性が示されています。
3つの地域類型の基本的な考え方
| 地域類型 | 基本的な考え方 | 介護事業所へのポイント |
|---|---|---|
| 大都市部 | 高齢者人口・サービス需要が増加し続ける地域 | 増加する複合的介護ニーズへの対応と人材・賃金競争への対策 |
| 一般市等 | サービス需要が増加から減少へ転じる標準的な地域 | ピークアウト(需要減少)を見据えた中長期的な事業計画 |
| 中山間・人口減少地域 | 高齢者人口・サービス需要が減少する地域 | 柔軟な配置基準・ICT活用による基盤維持と事業継続 |
ここで重要なのは、地域類型が「都市だから大都市」「地方だから中山間」という単純な行政区分ではない点です。人口構造の変化に伴い将来的に別の類型へ移行する可能性も考慮されているため、事業所としては「現在の区分」だけでなく、5年・10年後の地域の需要変化を見据える必要があります。
2.注目の「特定地域(中山間・人口減少地域)」と75歳以上人口
今回の改定議論で特に注目されるのが「特定地域(中山間・人口減少地域)」の指定です。
現行の特別地域加算や離島等相当サービスの対象地域を基本としつつ、それだけでは捉えきれない「高齢者人口が減少し、サービス需要が減少する地域」についても、一定の基準によって対象地域を特定する方向が検討されています。また、市町村全域だけでなく、市町村内の一部エリアを特定することも可能とする考え方が示されています。
なぜ「75歳以上人口」に着目するのか?
厚生労働省資料では、65歳以上人口全体ではなく、介護サービス利用の中心となる「75歳以上人口(後期高齢者数)」に着目する考え方が示されています。
- 65歳以上人口:約3,624万人(2024年時点)
- 75歳以上人口:約2,078万人(2024年時点/要介護認定率:約30.8%)
75歳以上人口は要介護認定率が大きく跳ね上がるため、「その地域に75歳以上の高齢者がどれだけいるか・どう変化するか」を見ることが、地域の介護需要とサービス維持の難しさを測る客観的な指標となります。
3.特定地域の判断で検討されている「3つの指標」
特定地域を判断するための基準として、以下の3つの指標(ア・イ・ウ)を組み合わせた検討が進められています。
【特定地域の判断で検討されている3つの指標】
ア.75歳以上人口密度 = x人/㎢未満 (検討例:5人/㎢未満)
一定面積あたりの75歳以上人口。数値が低いほど訪問時の移動距離・時間が長くなり、サービス効率が低下します。
イ.75歳以上人口 = y人未満 (検討例:1,000人未満)
地域における75歳以上人口の絶対数。市場規模そのものの小ささを意味し、「1,000人未満かつ減少傾向」などの条件が検討されています。
ウ.75歳以上人口変化率 = z%未満 (将来の減少ペース)
今後の75歳以上人口の減少ペース(減少率)。急激な需要縮小を捕らえるための指標です。
人口だけで機械的に決まるわけではない
「指標の数字に当てはまれば即自動指定」というわけではありません。地域の実際のサービス提供体制や事業所の有無などを総合的に評価し、市町村の意向を確認した上で都道府県が指定するというプロセスが想定されています。
4.中山間・人口減少地域における「柔軟な対応」と「特定地域サービス」
特定地域に該当する事業所に対しては、事業撤退や廃止を防ぎ、地域インフラを維持するための制度的支援が検討されています。
① 基準の弾力化・柔軟な運営
- 人員配置基準の緩和:他職種との兼務要件緩和や常勤換算方法の見直し。
- マルチスキリング・業務共同化:1つの事業所や拠点での多機能化(通い・訪問・宿泊等の柔軟な組み合わせ)。
- ICT・移動手段の活用:オンラインでのモニタリング容認や訪問ルート最適化。
② 「特定地域サービス」と「包括的な評価(定額払い)」の導入
令和8年成立の改正社会福祉法等に基づき、令和9年4月1日より「特定地域サービス」や「特定地域居宅サービス等事業」という新しい仕組みが創設されます。
特に注目されるのが「包括的な評価(月単位の定額払い)」の選択肢です。従来の「1回訪問して◯◯単位」という出来高払いだけでは利用者の少ない地域で経営が成り立ちにくいため、「地域にサービス拠点を維持していること自体を評価する定額報酬」を選択可能にする方向で議論が進んでいます。
5.中山間地域等に対する加算の見直し・行方
現在も中山間地域等に対しては以下の加算措置が存在します。
- 特別地域加算(所定単位数の15%加算)
- 中山間地域等の小規模事業所加算(10%加算)
- 中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算(5%加算)
令和9年度改定では、単に既存加算の割合を上下させるだけでなく、前述の「特定地域の指標(75歳以上人口密度等)」と連動させながら、「特定地域サービス(包括的評価)」と組み合わせて再編・最適化される見込みです。具体的な算定要件や加算率は、今後の介護給付費分科会で決定されます。
6.介護事業所が今から確認・準備すべきポイント
令和9年度改定に向けて、事業所が今から取り組んでおくべき実務チェックリストです。
【事業所向け実務チェックリスト】
- ☑ 1.自事業所エリアの現在の指定状況(特別地域加算対象等)を確認する
- ☑ 2.地域の「75歳以上人口」の現状と将来推移(密度・変化率)を把握する
- ☑ 3.訪問サービス等の「移動コスト・移動時間・空き時間」をデータ化する
- ☑ 4.ケアプランデータ連携やオンライン端末等の「ICT基盤」を整える
- ☑ 5.厚生労働省だけでなく「自治体(市町村・都道府県)」の動向を注視する
- 現行区分の確認:自事業所が現在「特別地域加算」や「離島等相当サービス」の対象かどうかを確認します。
- 地域データの把握:自治体が公表する人口推計などから、自エリアの75歳以上人口の動向を確認しておきます。
- コストの棚卸し:訪問にかかる移動時間、車両代、キャンセルによる損失等を可視化し、包括的評価が導入された際に比較判断できるようにします。
- ICT・業務効率化:事業所間連携やケアプランデータ連携システム等、生産性向上のための環境を整えます。
- 自治体情報の確認:特定地域の指定は都道府県と市町村が関与するため、国だけでなく自治体からの案内にも注視します。
まとめ|令和9年度改定は「地域に合わせた経営戦略」への転換点
令和9年度介護報酬改定における「地域類型」や「特定地域」の議論は、「全国一律の制度設計から、地域の実情に応じた柔軟な提供体制へ」という大きな方向転換を示しています。
特に中山間・人口減少地域の事業者にとって、今回の見直しは単なる厳格化ではなく、「人口が少ない地域でも事業を継続するための新しい選択肢(基準緩和・定額報酬等)」となる可能性があります。
制度が正式に施行されてから慌てるのではなく、まずは自事業所の足元のデータ(利用者数・移動コスト・地域の高齢化率)を整理し、地域の中でどのような役割を担っていくのかを検討することから始めましょう。
参考資料・情報源
本コラムは、厚生労働省が公表している以下の資料および情報を参考に作成しています。
- 厚生労働省「社会保障審議会(介護給付費分科会)」
- 厚生労働省「特定地域(中山間・人口減少地域)の考え方について(令和8年7月23日資料)」
- 厚生労働省「社会福祉法等の一部を改正する法律の広報資料について」
- 厚生労働省「令和9年度介護報酬改定に向けた今後の検討の進め方について(案)」
- 厚生労働省「全国介護保険担当課長会議資料」
※厚生労働省のホームページや発表資料を引用・編集して作成しています。掲載されている検討事項や数値指標案(5人/㎢未満、1,000人未満等)は現時点の検討例であり、今後の審議により変更となる場合があります。
